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2010-04-17

気候変動と移動圧力

昨晩、季節外れの雪が降った。東京では41年ぶりらしい。
ここのところ、日ごとに寒気と暖気が激しく入れ替わっている。外に出る時は、冬服と春服を交互に着替えなければならない。持病の腰痛が、前触れもなくシクシク出てくる。気温や気候の変化は、人の気分や行動の仕方も変えてしまう。

腰をいたわりながら、以前から繰り返し気にしている問題について振り返ってみた。

『約10-15万年前にアフリカで誕生したホモ・サピエンスは、その後5万年ほど前にアフリカを出た。その後ユーラシア大陸をどのように移動していったのか? それは何によって突き動かされたのか?』

以下は、現在の一般的な説。

気候変動により環境変化が起こり、食料確保のための狩りの範囲が変わった。ステップツンドラ地帯では温暖化と寒冷化が繰り返し起こり、ポンプのようにユーラシア大陸を北へ東へ何世代にもわたって、動物を追う小部族の人々を未踏の地へと少しずつ誘(いざな)った。
更新世末期には、地続きのベーリング海峡(ベーリンジア)を通過し、今のアメリカ大陸へ渡った部族もいた。完新世になると、気候が急速に温暖化し始める。環境の変化への対策として、それまでの狩猟生活から採集生活に切り替え、やがて一つの土地に定住して農業をはじめた。その後、灌漑設備や都市を築くようになり、気候が少しばかり悪化しても乗り切れるようになった。こうして現在われわれが文明と呼ぶものが始まった…。

その後、予測不可能な気候変動と関わりながら様々な文明が築かれ、そして滅んでいった。生物としての宿命で、増え続けた人口がその土地の環境収容能力をいずれ超える日がやってくる。そこで気候が大きく変動すると、もはや対応しきれず、多くの人は死に絶え、生き残った者は各地へ離散していく。ここには生物が「移動する」ことと「留(とど)まる」ことの葛藤が秘められている。

一方で、近年の気候学の成果は、長期にわたる地球温暖化時代となったここ1万5千年間は、多少の変動期があったにせよ、過去40万年間で最も安定した時代だったこと、別けても、20世紀は稀に見る気候に恵まれた時期だったことを教えてくれる。近代文明は大いなる幸運の元で育まれてきたのだ。それを当たり前に感じてしまっている現代人の「41年ぶりの雪」などいうとらえ方は、実に近視眼的なわけだ。

しかし、実際、われわれは大きな変化の端緒にいるのかもしれない。
数万年単位では地球は再び寒冷化する予想がある。そう、気候の変動は人類が温室効果ガスを増やそうが増やすまいが、いずれ必ず起こる。しかし、われわれの文明が存続する想像が及ぶ数百年単位では、どっちに転ぶかまだわからない。悲しいかな、われわれの多くは自分か次世代の生きる範囲のせいぜい数十年くらい先のことを考えるまでが関の山。いや10年先でも難しい。せめてこの短期間では、気候の変化による文明の壊滅的崩壊が始まらないでほしいと願う。

今日では近隣の土地には隣人が暮らしている。もう、われわれには数万年前のように他の場所に移動するという選択肢はない。略奪戦争を肯定するか、宇宙開発に本格的に乗り出さない限りは。
このような想像力と問題意識は、往々にして社会を再編成し、技術革新をうながす役目を果たすことにもなるはずだ。当面、こちらに向かっていくことを目指していくほかない。腰痛をかかえるもろい人体のような、グローバル化した後戻りできない現代文明の元で。

(旧サイトの「活動記録」より一部抜粋して転載)

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